出来栄えは「お先真っ暗」だった。約3カ月前、課題曲の譜面を前に、6人は途方に暮れていた。
初めて吹いた課題曲は、合奏というより、譜面通りに音を並べただけ。
鹿児島国際大学学友会吹奏楽部の主将で、サックス担当の福本菜帆さん(20)は「互いに音を合わせる意識もなく、本当に出場できるのか不安になった」とその日を振り返る。
同部は今夏、鹿児島県吹奏楽コンクールに参加することを決めた。「少なくとも数十年ぶり。ひょっとしたら初めてかもしれない」と部員らは言う。
これまでは、年に1度の定期演奏会や文化祭の出演が主な活動だった。「趣味で楽器を続けられれば」という雰囲気だった。
それが突然、他団体と演奏技術や表現力を競い合い、厳正な審査を受けるコンクールに挑戦することになったのは理由があった。
きっかけは昨年12月ごろ。LINEでグループ電話をしていたとき、部員の一人が「コンクール、出てみたいよね」とふいに口にしたことだ。
「え、コンクール?」「6人じゃ無謀だよ」
話し合いになった。やはり最初は慎重な意見もあった。
誰かが言う。「でも、活動の場を増やしたいよね……」
昨年の発表の機会は、定期演奏会だけだった。新型コロナウイルスの流行で、学内外の行事が軒並み中止になっていた。冬に野外でクリスマスコンサートを提案したが、大学から許可が下りなかった。
コロナ禍で奪われていく日常の代償は思った以上に大きかった。「何かやろう」という思いよりも、「どうせ無理でしょ」が先に立ってしまう。部内にはどことなく投げやりな空気が漂っていた。
でも――。
そういえば、高校最後のコン…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル